アニメの製作委員会について
こんにちは、凸森です。
今回はアニメの製作委員会について解説していきたいと思います。
制作進行・営業・プロデューサー、いずれの職種においても製作委員会との関わりは避けられません。
アニメ業界で働くにあたって製作委員会への理解はとても大事ですので、アニメ関連会社への就活・転職をお考え方は是非ご覧にいただけると幸いです!
製作委員会とは何か?
皆様の中には、以下のような疑問を抱かれている方がいらっしゃると思います。
「製作委員会ってなに?」
「なんでアニメを作るのに委員会組まなきゃいけないの?制作会社が作るんじゃないの?」
そこで、まずはアニメ製作委員会の意義についてご説明いたします。
アニメを作るのはお金がかかる
本ブログでは何回か言及してきましたが、アニメを作るのはお金がかかります。
30分アニメ1話で1000~3000万円、12話で1~3億円です。
私は仕事柄、この手の契約書を目にするのですが、
「数千~数憶円をキャッシュ(現金)で~月~日までに納めよ」と契約書に書かれているのを見て戦慄したことを覚えております。。
この規模のお金を1~2社で負担するのは、もしそのアニメタイトルが失敗したときに大きな損失となる可能性があり、非常にリスクが高いのです。
出資者=アニメ製作関係者
そこで、アニメを作るにあたり「製作委員会」が設立されます。
この委員会のメンバーは会社単位で、委員会に参加するにはアニメの製作費を出資する必要があります。
基本的な構成メンバーは主に以下の通りです。
【製作委員会の主な構成メンバー】
・テレビ局
・広告代理店
・出版社
・アニメ元請制作会社
・DVD会社
・音楽出版社
・玩具会社
・動画配信会社
・テレビ局
・広告代理店
・出版社
・アニメ元請制作会社
・DVD会社
・音楽出版社
・玩具会社
・動画配信会社
上記の会社がお金を出し合って、製作委員会を結成し、1作品のアニメを一緒に作っていきます。
出資比率=配当金・権利窓口=窓口手数料
「アニメ製作委員会に出資したはいいけど、どうやってそのお金を回収するの?」という疑問があるかもしれません。
もちろん、出資をしたからにはなにかしらの見返りがあるものです。
【出資比率=配当金】
ある製作委員会が作ったアニメの収入が製作費を超えた(=この状態を「リクープ」と呼びます)際に、委員会メンバーには「配分金」が支払われます。
その配分金は各社の「出資比率」に応じます。
【例:出資配分金】
・委員会収入として1000万円が発生
↓
・A社=製作費の50%出資、B社=製作費の30%出資、C社=製作費の20%出資だった場合、以下の通りに配分されます。
・委員会収入として1000万円が発生
↓
・A社=製作費の50%出資、B社=製作費の30%出資、C社=製作費の20%出資だった場合、以下の通りに配分されます。
- A社配分金=500万円
- B社配分金=300万円
- C社配分金=200万円

凸森
高い出資比率の会社は、ヒットした時に大きなリターンを得られます。
しかし、アニメが当たらなかった時の損失は大きいです。

みー
ハイリスク・ハイリターンだね。
【権利窓口=窓口手数料】
出資者には「権利窓口」という役割が与えられます。
普通、例えばマンガでしたら、マンガは出版社が100%主導権をもって展開できます。
また「海外で出版したい」というお問合せが来たら、それは出版社が窓口として担当します。
しかしアニメの場合、複数の委員会メンバーがいて「だれがどれを担当する?」となったときに混乱します。
そこで「A社はこの権利の窓口を担当、B社はこの権利の窓口を担当 …」というように権利に分けて窓口担当者を委員会内で決めておきます。
【例:権利窓口について】
- テレビ局=放送権
- DVD会社=ビデオグラム化権(DVDの製造/販売)
- 玩具会社=商品化権
- 動画配信会社=自動公衆送信権(VOD配信権)
また、委員会の中で各権利窓口を担当している会社は「窓口手数料」というものがあります。
【例:窓口手数料について】
・S社:DVDの製造/販売会社、アニメ「M」の製作委員会メンバー、ビデオグラム化権の窓口担当
↓
・S社、「M」のDVD製造/販売で1000万円の収益発生
↓
・「M」ビデオグラム化権:窓口手数料10%だった場合…
・S社:DVDの製造/販売会社、アニメ「M」の製作委員会メンバー、ビデオグラム化権の窓口担当
↓
・S社、「M」のDVD製造/販売で1000万円の収益発生
↓
・「M」ビデオグラム化権:窓口手数料10%だった場合…
- S社ビデオグラム化権:窓口手数料 100万円
- 残り900万円は製作委員会の共同口座に入金(=プール)し、製作委員会内の幹事会社が出資比率に応じて委員会メンバーに配当。
つまり上記の場合、窓口手数料の100万円はS社のみが得られる利益となります。

みー
ということは、製作委員会に参加している会社は
「配分金」+「窓口手数料」を得ることで、
出資した分を取り戻すことが出来るんだね。

凸森
そういうことです!
別のアニメ製作方式【広告収入方式】
「今までずっと製作委員会方式でアニメは作られていたの?」と思いの方もいるかもしれませんが、製作委員会が主流になってきたのは1990年代頃からで、それまでは「広告収入方式」が主流でした。
「広告収入方式」とは?
広告収入方式には、以下のような特徴があります。
【広告収入方式の特徴】
- 委員会を結成しない
- 広告代理店がスポンサーを集い、お金を集める
- そのお金を元に、テレビ局に広告料を支払い、放送枠を確保する
- 広告料を元に、テレビ局はアニメ制作会社に製作費を支払う
製作委員会方式とは異なり、共同出資金ではなく、スポンサー料を元に製作費をねん出してアニメを製作する形となります。
広告代理店による中抜き?
このモデルで、よく揶揄されるのは以下の点です。
広告代理店がスポンサー費を20%近く中抜きするため、アニメ制作会社に支払われる製作費が実製作費を下回る=アニメ制作会社が損した状態からスタート
確かに、広告代理店がスポンサー料を中抜きしすぎてるように映るかもしれません。
しかし広告代理店側もスポンサーを集うために営業努力をしているので、その分の「汗かき料」としては妥当性があると思います。
広告収入方式のメリット
このモデルの場合、「アニメ版権の著作権はアニメ制作会社にある」という点があります。
これはアニメ制作会社としては大きなメリットです。
なぜなら、アニメの商品化権や放送・配信の二次使用について、アニメ制作会社が窓口権を有しており、商品化のロイヤリティや放送・配信の二次使用料などで得られる窓口手数料がアニメ制作会社に還元されます。
つまり、初期段階では赤字だとしても、そのアニメの著作権はアニメ制作会社に帰属するので、その後の運用でいくらでも黒字化することが可能なのです。
製作委員会方式のメリット
広告収入方式という方法があるにもかかわらず、なぜ今日では製作委員会方式でアニメが作られているのでしょうか?
それは以下のメリットから来ております。
投資リスク分散
繰り返しになりますが、アニメを作るには多額のお金が必要となります。
例えば、ある会社が1億円をもっていて、それを1タイトルに全て投資したとします。
もしヒットすれば大きなリターンが得られます。
しかし、もし外れたら大きな損失のなり、会社が倒産する危機になりかねません。
もし、1億円を10タイトルに1000万円ずつ投資できたとしたらどうでしょう?
そうすれば、もし1タイトルで外れたとしても、ほかのタイトルがヒットすれば十分に投資分を回収することが出来ます。

凸森
アニメ1タイトルに会社の命運を分ける投資は難しいです。

みー
確かに”数うちゃ当たる!”の方がいいよね!
チャレンジできるアニメを作りやすい
製作委員会方式が「90年代に流行した」とすでにお伝えしておりますが、どうしてでしょうか?
それは製作委員会方式で作られた『新世紀エヴァンゲリオン』の大ヒットしたことがきっかけでした。
エヴァ以前まで、「広告収入方式」でのアニメ製作が盛んでした。
しかし広告収入方式ですと、製作費はスポンサーに依存しているので、
- 「お金を出してるんだからうちの商品を宣伝してくれ!」
- 「アニメ内でうちの商品を絶対登場させろ!」
- 「うちは子ども向けの商品を作っているかた、絶対に子どもに受けるストーリーにしろ!」
などのスポンサーの意向を大きく、不自由なアニメ製作が強いられます。
しかし製作委員会方式では、スポンサーなどの忖度を必要とする相手がおらず、皆が対等な関係の中で自由度の高いアニメが製作ができます。
そのような土壌の中でエヴァという作品が作られ、その後エヴァを追従するように製作委員会方式が隆盛し、子ども向けだけではなく大人も楽しめるアニメがその後量産されていくことになります。
製作委員会方式のデメリット
製作委員会は良いことばかりのようにも見えますが、もちろんデメリットもあります。
意思決定の遅さ
製作委員会には少なくとも4~5社、多くなると6~8社の委員会メンバーがいます。
意思決定には、委員会の決を取る必要があるため、その全社から承認を得る必要があります。
また、もし委員会メンバーの会社が一つでも債務不履行(=倒産)した場合、本作品の展開が凍結する可能性もあります。
アニメ制作会社に権利が残らない
製作委員会方式では、基本的にアニメ制作会社が出資することはあまりありませんです。
なぜなら、アニメ制作会社には委員会に出資するほどの余裕がない場合が多いからです。
(もちろん、資金が潤沢にある大手アニメ制作会社なら、出資する場合もあります)
そのため、アニメ制作会社は委員会から製作費を受け取り、そこからやりくりして利益を得るビジネスモデルとなります。
ここで注目すべきなのは、アニメの著作権は製作委員会に帰属します。

凸森
アニメの映像や商品には権利表記(©)がありますが、
基本的に原作者/製作委員会という形になってますね。
ですので、アニメ制作会社はどれだけ素晴らしい作品を制作したとしても、
二次放送・DVD売上・動画配信の売上などの利益を得ることが出来ないのです。

凸森
製作委員会方式のおかげで、
アニメ制作会社は初期投資リスクなしでアニメ制作が出来ます。

みー
でも、著作権は残らないのか…
メリットとデメリットを兼ね備えているね。
アニメ製作委員会の新しい流れ
ここからは近年みられる新しいアニメ製作委員会関連の流れを紹介します。
海外のアニメ会社の製作委員会出資
近年、アニメを観ていると製作委員会メンバーに見慣れない会社名があることがあります。
例えば、2018年に放送された『はねバド!』というアニメの製作委員会を見ていきたいと思います。
上の画像の中に”MEDIALINK ENTERTAINMENT LIMITED”という会社がありますが、
多分皆様には聞きなれない会社ではないでしょうか?
実はこの会社は香港の映像配給・配信・企画会社なのです。
過去に「ヒロアカ」「銀魂」「ノーゲーム・ノーライフ」など、様々な日本のアニメを取り扱っております。
▼MEDIALINK社・公式サイト▼
MEDIALINK社は、通常「完成したアニメを買う」というビジネスをしております。
しかしこの『はねバド!』ではなんと委員会から参加しており、企画段階から深く日本アニメに関わっております。
このような流れには以下のようなWin-Winの関係があります。
【日本側(製作委員会)】
- 海外からも出資を募り、新しい資金源を確保出来る
【海外側】
- 企画時点から日本アニメの製作委員会に出資することで、配分と窓口権を得られる
これは推測ですが、MEDIALINK社は、『はねバド!』の製作委員会に出資・参加することで、海外動画配信権の窓口権を得ているのではないかと考えられます。
近年では、海外の動画配信会社も日本のアニメを積極的に購入する傾向にあり、その窓口になることにより、窓口手数料で多くのリターンを得られます。
“NETFLIX”方式
最近よく“NETFLIXオリジナルアニメシリーズ”という言葉を見られると思います。
通常、動画配信会社のアニメというのは、製作委員会から配信権のライセンス契約を結んで、アニメタイトルを購入するというものです。
もちろん、NETFLIXも上記のような手続きを踏んでアニメタイトルを購入する場合もあります。
しかし“NETFLIXオリジナルアニメシリーズ”というのは、NETFLIXがアニメ制作会社とタッグを組んで企画段階から参集しているタイトルのことを言います。
このやり方には、以下のようなメリットがあります。
【NETFLIX方式のメリット】
- 本来、マンガや小説など”原作”がないと出資者が得られず”オリジナルアニメ”はハードルが高いが、NETFLIXはオリジナルアニメに積極的に投資をしてくれる。
- NETFLIXは製作費の50%以上を負担してくれる。
- アニメの著作権はアニメ制作会社に帰属する。
この方法で作られたアニメは”NETFLIX独占配信”という条件で公開されます。
「NETFLIXに加入しないと、このアニメ観られませんよ」ということです。
つまりNETFLIXは“NETFLIXオリジナルアニメシリーズ”を製作することで、他の動画配信会社との差別化を図り、加入者を増やしていこうという戦略です。
私の聞いた話だと、初のNETFLIXオリジナルアニメシリーズとして制作された『DEVILMAN crybaby』がNETFLIX独占で配信された際、加入者の伸びはとても良かったようです。
最後に
もし、アニメ業界への就活・転職を目指している方は、
今後アニメを観るときにEDの最後のほうに流れる「製作」という部分に注目してみましょう。
ここで表記されている会社は、アニメ製作委員会メンバーとして現在進行形でアニメ事業を展開している会社です。

凸森
「え!この会社、アニメ事業に関わってるんだ!」
という意外な発見があるかもしれません。

みー
なるほど!私も今度からちょっと注目してみようかな。
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