俺ガイル完・第11話 感想と考察~大切な他者に言葉を尽くすということ~

2020年・夏アニメ

俺ガイル完(3期)の11話を観た。

本話数は非常にハイコンテクストな内容で、この記事を書くのに時間がかかってしまった。

この3期11話は、俺ガイルという作品世界における”集大成”と言ってもいい話数であり、かつ最高の話数であると言ってもいいと思う。

今回は本話数を見て私が感じた部分をストレートに書いていきたいと思う。

平塚先生との会話

メンターとしての平塚先生

いつだって、八幡に”本当の大人の言葉”を掛けてくれたのは平塚先生だ。

1期の第12話、文化祭の時に八幡は自分が道化になって相模を煽って解決させた時、

平塚先生「比企谷、誰かを助けることは、君自身が傷ついていい理由にはならないよ」

また、2期の第8話でクリスマス会が行き詰っているにもかかわらず、奉仕部メンバーに相談せず単独で動いている八幡に対してもこうアドバイスしている。

平塚先生「この時間がすべてじゃない。でも、今しかできないこと、ここにしかないものもある。”今”だよ比企谷、”今”なんだ。考えてもがき苦しみ、あがいて悩め。そうでなければ、”本物”ではない」

今回の3期第11話においても、平塚先生のアドバイスが八幡のその後の行動のトリガーとなっていることは、言うまでもない。

抽象化するワードチョイスの問題

前回(3期・10話)のラストで平塚先生は八幡にこう言う。

平塚先生「(八幡・雪乃・由衣の関係性を)”共依存”なんて簡単な言葉で括るなよ。君の気持は、言葉一つで済むようなものか?」

八幡はこの言葉にハッとする。

そして平塚先生はこう続ける。

平塚先生「君の中で答えはあるのに、それを出す術を君は知らないだけさ」

平塚先生「やり方は一つじゃないよ比企谷。言葉一つとっても表し方は無限にある。例えば、君に対して思うことは沢山ある。めんどくさいとかへたれとか拗らせすぎとか将来が心配とか」

先生「まだまだこんなもんじゃない。けど、そういうのを全部ひっくるめて、、君が好きだよ」

©渡 航、小学館/やはりこの製作委員会はまちがっている。完

ここで平塚先生が言いたかったのは、一言では表現できない自分の感情・思いについてどのワードをベースに置いて抽象化するか、についてである。

陽乃さんはそれを”共依存”と呼んだが、それは陽乃さんの中だけの話だ(平塚先生も”共依存”というワードチョイスについて「陽乃らしい、うがった見方」と言っている)。

このワードチョイスについて自分でいくらでも表現しなおせることを、平塚先生は八幡に言いたかったのだ。

言葉にならない感情を伝えるための努力

また、平塚先生は続けてこう述べる。

平塚先生「一言で済まないなら、いくらでも言葉を尽くせ!言葉さえ信頼ならないなら、行動も合わせればいい。どんな言葉でも、どんな行動でもいいんだ…そのひとつひとつをドットみたいに集めて、君なりの答えを紡げばいい」

ここで特に重要なのは”どんな言葉でも、どんな行動でもいいんだ…”という部分である。

大事なのは、伝えたいと思っている相手と対峙すること、「私はあなたに伝えたいことがある」という姿勢を示すこと。

そしてそれは恰好をつけた理屈である必要はない。

そういうことを、平塚先生は八幡に伝えたかった。

八幡の決意

平塚先生と話して家に帰った後、八幡はベッドの上で以下のようなことを考える。

八幡「借り物の言葉に縋る。見せかけの妥協に阿り、取り返しがつかないまでに歪んでしまったこの関係は、どうしようもない偽物だ。だからせめてこの模造品に壊れるほどの傷をつけ、たった一つの本物に、故意に間違う俺の青春を、終わらせるのだ」

八幡は、雪ノ下と由比ヶ浜との”現状の関係性”を終わらせることを決意する。

由比ヶ浜 x 八幡

平塚先生と話した後の学校の放課後、八幡が下駄箱に向かうと由比ヶ浜が待っていた。

©渡 航、小学館/やはりこの製作委員会はまちがっている。完

(ずっと気になっていたのだが、由比ヶ浜はいつも”夕焼け”の中にいる少女だと言うイメージが私の中にある。これについてもいつかどこかで論じたいが、それは今後にとっておく)

二人は公園のベンチに腰掛け、”これから”について話し合う。

由比ヶ浜「ホントにこれでいいと思う?」

由比ヶ浜は八幡に奉仕部の今後についてどう考えてるかを尋ねる。

前回(3期・10話)にて雪ノ下は奉仕部を終わらせる意向を明確に伝えており、それに対して八幡は回答をしていない。

由比ヶ浜「ねぇヒッキー、ホントにこれでいいと思う?」

八幡「いいもなにも、」

由比ヶ浜「ちゃんと考えて答えて」

「ちゃんと考えて答えて」と言った時の由比ヶ浜のテンションがシリアスになる。

由比ヶ浜「もし、本当にいいなら…本当に終わりなら…私のお願い、ちゃんと言うから…本当に大事なお願い」

“本当に大事なお願い”は、この後も明確には明かされはしないが、それは「八幡とのパートナー関係になる」ことを指していると考えられる。

つまり、ここで言う「奉仕部が終わる」とは、3人ずっと一緒にいる関係性がリセットされ、個人として歩んでいくことであり、それは同時に由比ヶ浜は「八幡とパートナーになる」ということにおいて雪ノ下をケアする必要がないことを意味する。

したがって、雪ノ下が提言した奉仕部の解散について、八幡がどう考えているのかというのは、由比ヶ浜にとって非常に本質的な問題なのである。

それは八幡も知っているはずだ。

八幡はゆっくりと自分の考えを語り始める。

八幡「部活が終わること自体は仕方ないと思っている。いずれは終わるものだからな」

八幡「部活が終わることは避けられない。雪ノ下に続ける意思がないこともわかっている。終わる理由は全部納得いってる。俺は終わらせてもいいと思う」

由比ヶ浜は八幡の「終わらせてもいいと思う」という言葉を聞き終わったあと、5秒間ほどの沈黙が訪れる。

しかも、わざわざ2人の俯瞰のカットを挟んでおり、この「終わらせてもいいと思う」という言葉の重さが表現されている。

そして、俯瞰から由比ヶ浜のバストアップにカットが切り替わるとき、由比ヶ浜は目を閉じ八幡の言葉をしっかり噛み締めているように見える。

なぜなら先に言及したように、八幡が奉仕部を終わらせていいと思うということは、自分が八幡にアプローチをしていい、と同義であるから。

由比ヶ浜が「そっか…」と呟いた後、カットが切り替わり由比ヶ浜が少し八幡に寄るカットになる。

ここでも、由比ヶ浜が八幡へのアプローチを意識していることを表現していると思う。

由比ヶ浜「じゃあさぁ…」

八幡は由比ヶ浜の言葉を遮るようにこう言う。

八幡「一つだけ納得出来ないことがある

八幡「一つだけ納得出来ないことがある」

八幡が納得出来ないこととは何か?

八幡「あいつが何かをあきらめた代償行為として、妥協の上で誤魔化しながら選んだんだとしたら、俺はそれを認められない。俺が歪ませていたなら、その責任を…」

ここで、八幡は語りを止める。

そして自らの頬に自らビンタする。

どういうことか?

それはここで言う”責任”という言葉は原因の主体は雪ノ下にあることになる。

今、由比ヶ浜が求めているのは”八幡自身がどうしたいか?”であり、この回答は適切ではないと八幡は考えた。

由比ヶ浜「び、びっくりした…急にどうしたの?」

八幡「悪い、今のなし。なんかカッコつけてた」

由比ヶ浜「ふふっ、なにそれ?(笑)」

そして、八幡はこう続ける。

八幡「めっちゃ気持ち悪いこと言うけど、単純にアレだ。俺はあいつと関りがなくなるのが嫌で、それが納得いってねぇんだ

八幡は何でもないような口調で言っているが、これは核心的なことを言っている。

このセリフ後のカットで由比ヶ浜の目がアップになり徐々に見開いていくのも、八幡の発言が雪ノ下に対する自分の思いについての核心を語っていることを、由比ヶ浜が気付いていることを物語っている。

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ここでBGMが変化し、またベンチに座る二人をバックからのロングショットで映し、沈黙の重さを表現している。

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長い沈黙の後、由比ヶ浜が口を開く。

由比ヶ浜「関わり、無くならないんじゃないかな?」

この由比ヶ浜の言葉には、自らも半信半疑であるかのような響きがある。

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由比ヶ浜も、部活がなくなる=雪ノ下と今まで通りに関わることは難しいことをなんとなく察しているにも関わらずこのような質問をするということは、八幡が考えを改めるという”一縷の望み”に賭けたのかもしれない。

もちろん、八幡も同じことを考えている。

八幡「まぁ、普通はな。たまになんかで顔合わせて、世間話の一つもして、連絡とって集まりもしていれば、それなりに付き合いは続く。でも、俺はそうじゃない」

八幡「このまま関わることを諦めたら、多分そのまま…それがちょっと、納得いかなくてな」

ここまでで、八幡にとって雪ノ下が”特別な存在”であるということが、分かった。

十分すぎるほどに。

由比ヶ浜の願い「全部ほしい」

この後の会話で、由比ヶ浜は自分の願いについて語る。

由比ヶ浜「話すだけじゃ伝わらないなって思う、でも、その分私がわかろうとするからいいの。ゆきのんも多分そうだよ。私のお願いね、ずっと前から決まってるの。全部ほしい。だから、こんな何でもない放課後にゆきのんがいてほしい。ヒッキーとゆきのんがいるところに、私もいたいって思う。だから、絶対言って」

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“全部ほしい”とはどういうことか?

また「だから、絶対(ゆきのんに自分の思いを)言って」というのはどうして繋がるのだろうか?

それは、彼らの選択肢を整理して考えるとわかりやすい。

  1. 奉仕部がなくなり、由比ヶ浜は八幡とパートナー関係になる。
  2. 奉仕部がなくなり、八幡は雪ノ下とパートナー関係になる。

ここで考えるべきなのは、「どちらがまだ由比ヶ浜にとって、雪ノ下との縁が残されているか?」という話だ。

明らかに、2.でなければ、由比ヶ浜にとって雪ノ下との縁はなくなってしまう。

なので、「雪ノ下も八幡も奉仕部を終わらせることに合意している」+「八幡は積極的に雪ノ下に関わらないと縁が切れる」と言っている今、由比ヶ浜の”全部ほしい”を叶える方法は2.でしか残されていない。

その意味も込めて、由比ヶ浜は「その分、私がわかろうとするといいの」と言ったのだと推測される。

八幡「けど、お前はそれを待たなくていい」

八幡「いつかうまくもっとうまくやれるようになる。言葉や理屈をこねくり回さなくても、ちゃんと伝えられて、ちゃんと受け止められるように、多分そのうちなると思う。けど、お前はそれを待たなくていい

この言葉、一見残酷に聞こえるかもしれない。

しかし、これは”取り返しがつかないまでに歪んでしまったこの関係”を終わらせるために、八幡が頭がちぎれるほどに苦心して考えた、「由比ヶ浜への思いに対する感謝と決別」だったと私は考えている。

由比ヶ浜は”全部ほしい”と願っている。

“全部ほしい”とは、「八幡を独占する」ということではなく、「雪ノ下とも一緒にいたい」ということを含んでいるのである。

つまり、由比ヶ浜は自分から八幡に告白することが出来ない状況に陥っているのである。

なぜならそれは、自らが望んでいる”全部ほしい”という願いと反しているから。

したがって、この「けど、お前はそれを待たなくていい」という言葉は由比ヶ浜が上記のような「告白したいけど、できない」というジレンマの中にいて、そこから解放させ、しかし相手を必要以上に傷付けない、由比ヶ浜の事を誰よりも知悉している八幡にしか言えない、懇篤に溢れた断り方なのだと、私は思う。

由比ヶ浜には、この八幡のいたわりが痛いほどわかった。

この言葉聞いて由比ヶ浜は一瞬目が潤んだ。

©渡 航、小学館/やはりこの製作委員会はまちがっている。完

しかし、

由比ヶ浜「なにそれ?待たないよ」

と笑ったのだ。

©渡 航、小学館/やはりこの製作委員会はまちがっている。完

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ダミープロム企画の再開

その後八幡は、プロムへの当て馬企画だったダミープロムを再開させる。

プロムを無事終えられた今、ダミープロムを再開させることは何の意味もないはずだ。

にもかかわらず、八幡はこれを進めようとしている。

どういうことだろうか?

雪乃ママ、再臨

このことを聞いて雪乃ママと陽乃さんは学校にやってきて八幡・雪ノ下・平塚先生に事情を聴く。

八幡「(前回のプロムの結果について)ご納得されてない方もいらっしゃったようですので」

この言葉の後、陽乃さんをチラッと見る。

しかし陽乃は「お母さんたちが納得してるならいいんじゃなーい」と本気で取り合わない。

そこで八幡は自分が納得していない旨を伝える。

雪乃ママ「理由を聞かせてもらってもいいかしら?」

八幡「俺の立てた企画の方がどう考えても上でしょう?それが実現していたらどうなっていたのかなって思うのは自然な感情じゃないですか?」

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一同は幼稚な理由に呆れる。

しかし八幡はこう続ける。

八幡「うまくいかなかったとしても、きっちり答えを出すべきなんです。ちゃんと決着つけないと、ずっとくすぶるから」

この言葉は陽乃さんが前回八幡に言った言葉で、陽乃さんへの当てつけとして引用している。

陽乃さんも八幡の意図に気付き、爆笑。

八幡はダミープロムはあくまで「有志の活動」という立て付けでの進行を提案する。

陽乃さんの反論/八幡の責任

ここで陽乃さんが八幡に反論する。

保護者を黙らせるためにダミープロムをつぶしたのに、それが実施されることは雪ノ下家の沽券に関わる、と。

陽乃「これはもうウチの問題でもあるの。プロムだって、雪乃ちゃんが自分で決めて頑張ったことなわけでしょう?お母さんだって認めてくれたわけだし。比企谷くん、それを否定するの?ウチの問題に口を挟む意味、わかってる?」

八幡はこれについてこう回答する。

八幡「わかってますよ…その辺の責任も、まぁ、取れるなら取るつもりです」

この言葉に、陽乃さんは八幡の覚悟がわかった。

雪乃ママも八幡の覚悟を察したようである。

八幡の目的は最初から雪乃だった

八幡の覚悟を知ったうえで、改めて問う。

雪乃ママ「本当に出来ると思ってるの?」

ここで雪乃が「不可能」とコメントが、八幡はこう言い返す。

八幡「まぁ、俺では、無理ですね。けど、幸いプロムを取り仕切った経験者にあてがありまして。お宅の娘さんなんですけどね」

もちろん、雪ノ下はこのことを聞いていないので驚く。

ここで八幡はさらに追撃をかける。

八幡「それとも、ご息女の資質をお疑いですか?前回のプロムに何かご懸念でも?」

この言葉に雪乃ママは完全に言い包められる。

そして、結局ダミープロムは雪乃が責任者として進行することになる。

雪ノ下 x 八幡

このシーンは俺ガイルという物語のクライマックスである。

雪ノ下「どうしてあんな無茶なこと言いだしたの?」

雪ノ下はダミープロムを再開させた理由を八幡に問うた。

八幡「あれしかお前と関わる方法がなかった」

雪ノ下は「はぁ?」と拍子抜けた声を出す。

八幡「部活がなくなると、もうお前と関わる接点がないからな。引っ張り出す口実が他に見つからなかった」

この回答は雪ノ下にとってはあまりに想定外だったに違いない。

雪ノ下「約束はどうなったの!?」

雪ノ下は自分に描いたシナリオではない方向に八幡が動いていることに動揺を隠しきれていない。

雪ノ下「なんでそんなこと…約束はどうなったの!?お願い、叶えてって言ったのに!」

ここで言う”約束”と”お願い”はイコールの関係性である。

  • 約束=私(雪ノ下)との約束
  • お願い=由比ヶ浜の願い

八幡「その一環と言えなくもない。何でもない放課後に、お前がいてほしいって、そう言われてな」

雪ノ下は、由比ヶ浜が八幡に好意を抱いていることを知っていて、二人が結ばれて自分はすっとその場から去ることを想定していた。

しかし、八幡はそれをさせなかった。

そして何より、由比ヶ浜がそれを許さない。

ここで手を離したら、二度と掴めない

雪ノ下はどうして八幡がわざわざこのようなことをしたのかが理解できていない。

雪ノ下「わざわざこんなことしなくても…」

八幡はこう反論する。

八幡「無理だろ。顔見知りとか知り合いとか友達とか同級生とか、呼び方は色々あるだろうけど、そういう関係をうまく保てる自身がない」

雪ノ下はさも”あなたと一緒にしないで”と言わんばかりに、「自分はきっとうまくやる」といって八幡を退こうとする。

八幡「言っちゃなんだが、俺もお前もそこそこコミュ力低い上に、拗らせすぎている。ついでに言うと人づきあいがドへたくそだ。今更器用になんてできる気がしねぇ。距離置いたら、もっと離れてく自信があるぞ!」

八幡の先を歩き、背を向けている雪ノ下。

八幡は歩みを止めずに離れていく雪ノ下を見て、半分諦めそうになった。

しかし、”ここで諦めてはいけない”

その思いから、八幡は雪ノ下の手を掴む。

前回の3期・10話では自ら放してしまった、雪ノ下の手を…

©渡 航、小学館/やはりこの製作委員会はまちがっている。完

八幡「手放したら、二度とつかめねぇんだよ。こういうの言うのは、すげぇ恥ずかしくて、今すぐ死にたい気分なんだけど、”責任取る”って言葉じゃ全然足りてなかった。義務感とかじゃないんだ。責任”取りたい”というか、”取らせてくれ”というか…うっ…」

雪ノ下にも八幡のシリアスさは伝わっていた。

“想いは、触れた熱だけが確かに伝えている”ように。

人生を”歪める”とは?

八幡「お前は望んでないかもしれないけど、俺は関わり続けたいと思っている。義務じゃなくて、意志の問題だ。だから、お前の人生”歪める”権利を、俺にくれ」

もちろん、人生を”歪める”権利、という言葉に、雪ノ下は質問する。

雪ノ下「“歪める”って何?どういう意味で言っているの?」

八幡「人生変えるほどの影響力は、俺にはないから、多分、俺もお前も普通に進学して、いやいやでも就職して、それなりにまっとうに生きると思う。でも、関わり合うと、遠回りしたり、足踏みしたり、いろいろするだろ?だから、人生がちょっと“歪む”

八幡の言う”歪める”というのは、彼なりの頭の中で「自分は雪ノ下に何をしてあげられるのか?」について必死に考えた結果、出てきた言葉だ。

以前、2期の8話で平塚先生は八幡にこうアドバイスしている。

平塚先生「この場合、なぜ傷つけたくないかこそを考えるべきなんだ。そしてその答えはすぐに出る。大切なものだから、傷つけたくない。でもね比企谷、傷つけないなんてことは出来ないんだ。人間存在するだけで、無自覚に誰かを傷つけてしまうものさ。生きていても死んでいても、ずっと傷つける。関われば傷つけるし、関わらないようにしてもそのことが傷つけるかもしれない。けれど、どうでもいい相手なら傷つけたことに気付かない。必要なのは自覚だ。大切に思うからこそ、傷つけてしまったと感じるんだ。誰かを大切に思うということは、その人を傷つける覚悟をするということだよ…

この平塚先生の言葉を、八幡は自分の中で考えた。

そして出てきた答えが、“歪める”だった。

“傷付ける”のではなく、自分が誰かと関わることで、その人が本来の人生の形状を”歪める”こと。

これこそが、平塚先生の言葉を元に八幡のたどり着いた答えだった。

「人生を歪める権利」と「自分の人生」の等価交換

ただ人の人生を歪めて終わりだったら、単なる独りよがりの行為に過ぎない。

なので八幡はこう提案する。

八幡「これからはもっと歪む。けど、人の人生歪める以上、対価はちゃんと払うつもりだ。まぁ、財産はほぼゼロだから、渡せるものは時間とか感情とか将来とか人生とか、そういう曖昧なものしかないんだけど…大した人生送ってねぇし、先々もあんま見込みはないが、でも、人の人生に関わる以上、こっちもかけなきゃフェアじゃないからな。諸々全部やるから、お前の人生に関わらせてくれ」

雪ノ下は、自分にそこまでの価値はないと反論する。

八幡「どんなに面倒くさくてもいい。厄介でもいい。逆にそこがいいまである」

さらに加えて、

八幡「人生歪める対価には足りないだろうけど、まぁ、全部やる。いらなかったら捨ててくれ。面倒だったら忘れていい。こっちで勝手にやるから、返事も別にしなくていい」

ここで八幡が強調しているのは、“自分の意志”という部分である。

今まで理屈をこねくり回して自分の行動に意味づけしてきたが、今回は言葉にならないがしかし決して嘘ではない”本物”の感情を元に話をしている。

そう、八幡は、自分の中の”本物”にたどり着いたのである。

そして雪ノ下はこう答える。

雪乃「あなたの人生を、私に下さい」

©渡 航、小学館/やはりこの製作委員会はまちがっている。完

おまけ

フィルムとしての美しさ

今回の俺ガイル完・11話、作画/演出/作画上の芝居/セリフ上の芝居において、最高のエピソードの一つだと言って間違いない。

特に由比ヶ浜と八幡のシーンについては、二人の一瞬一瞬の心の動きをアニメ表現しており、このシーンはアニメ史上屈指の日常芝居の描写だと思う。

もちろん、監督の及川 啓さんの力もある思うし、また今回絵コンテ・演出を担当した鈴木 龍太郎さんの演出プランの精巧さも大きいと思う。

平塚先生「ただ、私はそれが君だったらいいと思う」

2期の8話で、平塚先生は八幡にこうを言っていた。

平塚先生「正直に言おう、ホントは君でなくてもいいんだ。この先いつか、雪ノ下自身が変わるかもしれない。いつか彼女のことを理解できる人が現れるかもしれない。彼女の元に踏み込んでいく人がいるかもしれない。それは、由比ヶ浜にも言えることだ」

平塚先生「君たちにとって、”今この時間”がすべてのように感じるだろう。だが決してそんなことはない。どこかで帳尻は合わせられる。世界はそういう風に出来ている。ただ、私はそれが君だったらいいと思う。君と由比ヶ浜が、雪ノ下に踏み込んでくれることを願っている」

結果として、この平塚先生の言葉通りとなった。

雪ノ下=夜のお姫様・由比ヶ浜=夕焼けの少女

雪ノ下と八幡が大事な話をする時、それは必ず夜だった。

その一方で、

由比ヶ浜と八幡が大事な話をする時、それは必ず夕焼けの中だった。

このあたりについて、もう少しロジックの補強が必要だが、いつか論じてみたいと思う。

由比ヶ浜「あたしは、あたしたちは、初めて本当に恋をした」

もうこれ以上泣いている由比ヶ浜のシーンについて語るのは本当に心苦しいので、この言葉に対する考察は差し控えさせていただきたいと思う。

俺ガイル完・10話 偽物に成り下がってまで陽乃が守りたかったのは?
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コメント

  1. tokoton より:

    「どんなに面倒くさくてもいい。厄介でもいい。逆にそこがいいまである」
    ですね