俺ガイル完・10話 偽物に成り下がってまで陽乃が守りたかったのは?

2020年・夏アニメ

俺ガイル完(3期)の10話を観た。

この話数を語るのにブログ風のライティングは適切ではないように感じるので、普段とはちょっと文体を変えてと語りたいと思う。



今回の話数のメインラインを一言で言えば、プロムは無事成功し、雪乃は母親に自分のやりたいことを伝える。

そういうお話。

それに対して、陽乃さんは不服の意を表明する。

©渡 航、小学館/やはりこの製作委員会はまちがっている。完

陽乃「こんな結末が、私の20年と同じ価値だなんて認められないでしょう?もし本気で譲れっていうなら、それに見合うものを見せてほしいのよね」

陽乃「ずっとああいう扱いを受けてきて、それがいきなり”はいそうですか”って訳にはいかないでしょ?それ納得するって、結構難しいと思わない?」

©渡 航、小学館/やはりこの製作委員会はまちがっている。完

正直「厳しいすぎる」と思ったし、何か当てつけのようにも感じられる。

雪乃に不服を伝えて部屋を去るとき、陽乃さんは八幡を個人的に呼びつけていた。

八幡は陽乃さんに対して怒りを感じていた。

©渡 航、小学館/やはりこの製作委員会はまちがっている。完

八幡「なんであんなこと言うんだ?結局あんた、一体何がしたいんですか?」

陽乃「言ったでしょう?なんでもいいしどっちでもいいの。家のことなんてどうでもいいの。私がやろうが、雪乃ちゃんがやろうがどっちだっていい。私はただ、納得させてほしいの。どんな決着でもいいから」

ここまでは陽乃さんの表面上の本音。

しかし徐々に、陽乃さんは深層の本音を語り始める。

陽乃「だって、あの子の願いは只の”代償行為”でしかないんだから」

©渡 航、小学館/やはりこの製作委員会はまちがっている。完

ここでいう”代償行為”とはもちろん、【雪乃が八幡と由衣との関係性】と【父の仕事を引き継ぐ】を等価交換にしていることである。

八幡も雪乃の意図には気づいていた。

八幡は”男の意地”という言葉を用いることで正当化したが、いざ陽乃に言葉にされたとき、自己欺瞞に苛まれている。

そうして、陽乃は八幡にこう告げる。

陽乃「だから言ったじゃない?君は酔えない」

これは完(3期)の第2話で陽乃さんが八幡に”予言”した言葉だ。

(俺ガイル・第2話より)

陽乃「本当に酔わないんだって。もしかしたら酔えないのかも。どんなにお酒を飲んでも、後ろに冷静な自分がいるの。自分がどんな顔しているかまで見える。笑っても騒いでも、どこか他人事って感じがするのよね。ただ、君もそうだよ」

©渡 航、小学館/やはりこの製作委員会はまちがっている。完

陽乃「予言してあげる」

陽乃「君は、酔えない」

陽乃さんは、八幡が自分と同じで、自分の何かを嘘をついて他人の望み通りにすることについて、それを心の底から喜べないことを指して”酔えない”という言葉を用いている。

そして、立ちすくむ八幡に対して、陽乃さんは八幡をいたわるように優しく目をしてささやく。

陽乃「ちゃんと決着をつけないとずっとくすぶるよ。いつまでたっても終わらない。私が、20年そうやって騙し騙しやってきたからよくわかる。そんな”偽物”みたいな人生を生きてきたの…」

去り際、陽乃さんは夜空を見上げて、呟く。

©渡 航、小学館/やはりこの製作委員会はまちがっている。完

陽乃「ねぇ、比企谷君…”本物”なんて、あるのかな…?」

©渡 航、小学館/やはりこの製作委員会はまちがっている。完

twitterでこのシーンの原作の描写に触れているツイートがあったので引用する。

雪乃には「20年という年月に対する納得がほしい」と言っているが、陽乃さんがそこまで感情的になったのは、”20年に見合うものが欲しい”という理由ではないはずだ。

ただ、単純に許せなかったのだと思う。

自分は”偽物”に成り下がった。

雪乃のことを思った、自らの選択で。

しかし雪乃が独り立ちしたのち、残るものは”偽物”の自分だけ。

いや、「最悪それでもいい」とすら陽乃さんは思っていたのかもしれない。

しかし、陽乃さんが最も気に入らないのは、雪乃が八幡と由衣との関係性すら断ち切って独りになろうとしているところだと思う。

自分には永遠につかめない、”本物”に手が届きそうなのに、自らそれを放棄する雪乃。

それが許せない。

だからこそ、あそこまで厳しく雪乃に言ったのだと思う。

陽乃さんが守りたかったのは何か?

自らに”偽物”の烙印を押し付けてまで、守りたかったもの。

それは徹頭徹尾、”雪ノ下雪乃”だ。

ハッキリ言って、陽乃さんは雪乃のことしか考えていない。

そして、陽乃さんは雪乃を愛している。

自分が壊れてしまうほどに、

どうしようもなく。

“本物”なんて、あるのかな?

©渡 航、小学館/やはりこの製作委員会はまちがっている。完

この時、陽乃さんは燦燦と輝く星空の中に、何を見たのだろうか?

それはきっと、”本物”で繋がれた、とある姉妹のありえたかもしれない空想の姿だったのかもしれない。

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